「よく『防災設備が必要』と言うけれど、そもそも防災設備ってどんなものを指すの?」
「防災設備と防火設備って同じもの? それとも別物?」
災害対策をしていて、そんな疑問を感じた人も多いのではないでしょうか?
「防災設備」をひとことで説明すると、建物・人・財産を災害から守るための設備です。
その中には、火事を消火する設備や災害を知らせる警報設備、避難のための設備なども含まれます。
似た用語である「防火設備」は、火災のときに炎を防ぐための設備で、法律で明確な定義と基準が定められていますが、防災設備には特に定義などはありません。
そこでこの記事では、
◾️防災設備とは何なのか
- 防火設備との違い
- 防災設備の種類
- 防災設備に関する法律
- 防災設備が必要な建物
といった、防災設備の基礎知識から解説していきます。
それを踏まえた上で、
◾️各防災設備の具体的な種類と設置基準
◾️防災設備に義務づけられている定期点検制度
についてもくわしく説明します。
この記事を最後まで読めば、防災設備について必要な知識が得られるはずです。
これにしたがって、あなたが万全の防災設備を備えられるよう願っています。
目次
1. 防災設備とは
一般的に「防災設備」という言葉が使われるときは、「災害を防ぐための設備全般」といったような広くて大まかな意味を表すことが多いでしょう。
一方法律などでは、厳密な定義や種別が定められているのでしょうか?
まずはこの章で、「防災設備」という用語の定義や意味、関係する法律などをくわしくわかりやすく説明していきましょう。
1-1. 「防災設備」は建物・人・財産を災害から守るための設備
「防災設備」という言葉を現在の法律の中で検索してみても、厳密な定義は見つからず、使用例も少ないものでした。
つまり「防災設備」という言葉は法律用語ではなく一般的な用語だと言えるでしょう。
「防災設備の計画と設計」(島村 直輝/『電気設備学会誌』39 巻 (2019) 5号)という論文の冒頭では、
「防災設備は、災害から建物とその利用者の人命・財産を守るために設ける設備の総称である」と定義されています。
また、「防災設備に求められるもの」(引地 順、市川 紀充/『電気設備学会誌』34 巻 (2014) 3号)という論文では、
「防災設備には大きく、火災に代表されるような建築設備等に求められるものと、地震や台風などの自然災害に求められるものとに分けられる」と分類しています。
が、多くの場合では、自然災害よりも火災にフォーカスして「防火設備」を指して使われているようです。
1-2. 「防災設備」と「防火設備」の違い
では、「防災設備」と「防火設備」とは、厳密にはどう違うのでしょうか?
その関係性を図にすると、以下のようになります。
「防災設備」という大きな括りの中に、「防火設備」をはじめとしたさまざまな設備が含まれる、というイメージです。
ちなみに「防火設備」は、火事の際に炎を遮ることを目的とした設備で、防火扉や防火シャッター、水の幕を張るドレンチャーなどが含まれます。
防火設備についてさらに知りたい場合は、別記事「防火設備とは?その種類と規定、必要な点検と定期報告の方法を全解説」にくわしく説明がありますので参照してください。
1-3. 防災設備の種類
防災設備には、防火設備をはじめとして、災害から人命や財産を守る設備全般が含まれますが、ではそれにはどんな種類があるのでしょうか。
これは大きく分けて、以下の5種類と考えればいいでしょう。
◾️消火設備:消化器、消火栓など
◾️警報設備:火災報知器、非常警報など
◾️避難設備:避難はしご、誘導灯など
◾️消火活動用設備など:排煙設備など
◾️防火設備:防火扉、防火シャッターなど
この中で、「防火設備」だけが他の4種とは扱いが違うのですが、それについては次の項でくわしく説明します。
1-4. 防災設備に関する法律
防災設備は、ただ備えればいいというわけではありません。
国や地方自治体が定めた基準に沿って設備を設置し、定期的に安全点検と報告をする義務があります。
防災設備に関して定めた法律には、以下のようなものがあります。
◾️消防法・消防法施行令
国が「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資する」ために制定した消防法と、それに関する細則などを定めた施行令があります。
特に防災設備と関わりの深い条項としては、以下の2つが挙げられます。
1)消防法第8条
一定の規模以上の建物を「防火対象物」と定め、消防計画の作成や避難訓練の実施、消火設備や避難設備などの防災設備の管理や、定期点検の義務が定められています。
特に、消防法第8条の2の2による「防火対象物定期点検報告制度」は、建物の所有者・管理者が「防火対象物点検資格者」に依頼して定期的に点検と、消防機関への報告を行う必要があるため、知っておかなければならない重要な条項です。
これについては、「3 防災設備の定期点検」でくわしく説明します。
2)消防条第17条
「防火対象物」の消防用設備(消化器、火災報知器、避難設備など)の設置や管理、定期点検の義務が定められています。
特に、消防法第17条の3の3による「消防用設備等点検報告制度」は、建物の関係者が「消防設備士」や「消防設備点検資格者」に依頼するなどして定期的に点検と、消防機関への報告を行う必要があります。
「消防用設備点検」で点検するものは、前項で挙げた防災設備5種のうち、
- 消火設備:消化器、消火栓など
- 警報設備:火災報知器、非常警報など
- 避難設備:避難はしご、誘導灯など
- 消火活動用設備など:排煙設備など
の4種です。
こちらも「3 防災設備の定期点検」でくわしく説明しますので、参照してください。
◾️建築基準法
国が「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資する」ために定めた法律です。
その第12条では、「特定建築物」と規定された建物の所有者・管理者に対して、建物自体やその設備の定期的な点検・報告を義務づけています。
これを「定期報告制度」、通称「12条点検」と呼んでいて、その中には、前項で挙げた防災設備5種のうち、
・防火設備:防火扉、防火シャッターなど
の点検が含まれています。
「定期報告制度」についてくわしく知りたい場合は、別記事「建物の安全を点検する「定期報告」制度:その点検内容と報告方法とは」を参照してください。
◾️火災予防条例
国が定めた法律に加えて、各市町村が火災予防のために定めた条例もあります。
ここで覚えておいて欲しいのは、防災設備5種のうち、消防法で管理・点検が義務づけられているものと、建築基準法によるものとが分かれているということです。
整理すると、以下の図のようなイメージになります。
定期的な点検や報告が3種類ありますので、混乱したり忘れてしまったりしないよう注意してください。
1-5. 防災設備が必要な「防火対象物」
消防法で防災設備の設置や点検が義務づけられているのは、「防火対象物」とされる建物です。
この定義は、以下の表①の用途に使われているもので、表②の規模のものと決められています。
【表① 防火対象物の用途】
用途 |
|
---|---|
1 |
劇場、映画館、演芸場または観覧場 |
公会堂または集会場 |
|
2 |
キャバレー、カフェー、ナイトクラブその他これらに類するもの |
遊技場またはダンスホール |
|
ファッションマッサージ、テレクラなどの性風俗営業店舗など |
|
3 |
待合、料理店その他これらに類するもの |
飲食店 |
|
4 |
百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗または展示場 |
5 |
旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの |
6 |
病院、診療所または助産所 |
老人福祉施設、有料老人ホーム、精神障害者社会復帰施設など |
|
幼稚園、盲学校、聾学校または養護学校 |
|
7 |
公衆浴場のうち、蒸気浴場、熱気浴場その他これらに類するもの |
8 |
複合用途防火対象物のうち、その一部が表①の1から7に該当する用途に供されているもの |
9 |
地下街 |
【表② 防火対象物の規模】
防火対象物全体の収容人員 |
30人未満 |
30人以上300人未満 |
300人以上 |
---|---|---|---|
点検報告義務 |
義務なし |
以下の1および2の条件に該当する場合は義務あり 1)特定用途(表①の1〜7の用途)が3階以上の階または地階にあるもの |
すべて義務あり |
これに該当する場合は、消防法に定められた防災設備の設置と点検を必ず行なわなければなりません。
その設置基準についてはこの記事の2章で、点検については3章でくわしく説明していきます。
2. 防災設備の種類と設置基準
消防法では、どんな防災設備をどんな条件で設置しなければならないか、細かく基準を定めています。
さらに各市町村の火災予防条例によっても設置基準がありますので、建物のある市町村ごとに確認してください。
例えば、以下のリンク先で横浜市の「消防用設備等設置基準項別早見表」を見ることができます。
この章では、各防災設備にはどんな種類があるかを挙げていきましょう。
2-1. 火設備
「消火設備」に含まれるのは、主に以下の10項目です。
1)消火器・簡易消火器具:
→一般的な消化器に加えて、水バケツ、水槽、乾燥砂なども含みます。
2)屋内消火栓設備
3)スプリンクラー設備
4)水噴霧消火設備:
→水を霧状に噴射する消火設備で、主にトンネルや駐車場、可燃物を扱う場所などに設置します。
5)泡消火設備:
→消火用の薬剤を泡状に放出して火を消すもので、油が燃えている場合など、水での消火が適さない場合に使われます。
6)不活性ガス消火設備:
→二酸化炭素や窒素などを消火剤として噴出し、酸素濃度を下げて消火するものです。
あとが汚れないので、精密機器がある場所や美術品がある場所などでも使用できます。
7)ハロゲン化物消火設備:
→消化力が強く油火災や電気機器にも使用でき、すぐ蒸発してあとが汚れない「ハロン」という薬剤を放射して消火するものです。
コンピュータや通信機器がある場所や、美術館などでも使用できます。
8)粉末消火設備:
→消火薬剤の粉末を噴出して火を消すものです。
9)屋外消火栓設備
10)動力ポンプ消火設備:
→「ポンプ、内燃機関、車台(軽可搬消防ポンプを除く)、その他必要な機械器具から構成される消防の用に供するポンプ設備」と規定されています。
2-2. 警報設備
「警報設備」に含まれるのは、主に以下の6項目です。
1)自動火災報知設備:
→火災で発生した熱や煙、炎を感知して、警報を発して建物内に知らせるものです。
2)ガス漏れ火災警報設備:
→ガス漏れが発生した場合に検知して、警報を発して建物内に知らせるものです。
3)漏電火災警報器:
→電気配線から電流が漏れた場合に検知して、警報を発して建物内に知らせるものです。
4)消防機関へ通報する火災報知設備:
→火災が発生した際に、簡単な操作で消防機関に電話回線を通じて自動的に通報・通話ができるものです。
5)非常警報器具:
→警鐘・携帯用拡声器・手動式サイレンが含まれます。
6)非常警報設備:
→非常ベル・自動式サイレン・放送設備が含まれます。
2-3. 避難設備
「避難設備」に含まれるのは、主に以下の2項目です。
1)避難器具:
→滑り台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋などが含まれます。
2)誘導灯および誘導標識:
→非常口へ誘導するものです。
2-4. 消火活動用設備など
「消火活動用設備」に含まれるのは、主に以下の5項目です。
1)排煙設備:
→排煙機、排煙口などが含まれます。
2)連結散水設備:
→火災の際に、消防ポンプ車からの水を送水口から取り込んで、散水ヘッドから放水する設備です。
地下街やビルの地下階に設置されます。
3)連結送水管:
→ビルの2階以上で火災があった場合、消防ポンプ車からの消火用の水を送水口から取り込んで、放水口にホースをつなげばすぐ放水されるような仕組みです。
4)非常コンセント設備:
→火災などで電気配線が燃えてしまった場合に、かわりに使用するためのコンセントです。
地階をのぞいた11階以上の建物に設置します。
5)無線通信補助設備:
→消防専用の無線端子を設けて、消防隊の無線機を接続することで、無線通信できるようにした設備です。
主に無線が届きにくい地下などで使われます。
また、それ以外にも以下のような設備が必要です。
1)消防用水:
→防火水槽、または貯水池などです。
2)非常電源:
→火災などで電源が停止してしまった場合、かわりに送電できる設備です。
非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備、燃料電池設備が含まれます。
2-5. 防火設備
「防火設備」は消防法ではなく建築基準法が適用されますが、ここでは合わせてその設備の種類を挙げておきましょう。
主な設備は以下の4項目です。
1)防火扉:
→廊下や階段などに設置して、火災の際には煙感知器などと連動、自動的に閉鎖して炎を防ぎます。
2)防火シャッター:
→広い通路などに設置して、火災の際には煙感知器などと連動、自動的に閉鎖して炎を防ぎます。
3)耐火クロススクリーン:
→エレベーターや広いスペースなどに設置する防火・防煙機能を持った布状のスクリーンで、火災の際には煙感知器などと連動、自動的に閉鎖して炎を防ぎます。
4)ドレンチャーその他の水幕を形成する防火設備:
→天井に設置した放水ヘッドから水幕を噴射して防火するドレンチャーなどです。
以上の防災設備を、法律で規定された建物には必ず設置するようにしてください。
3. 防災設備の定期点検
防災設備については、定期的に点検・報告して安全を確保することが消防法と建築基準法で義務づけられていて、3つの点検報告制度があります。
1章でも説明したように、
1)消防法第8条の2の2「防火対象物定期点検報告制度」
2)消防法第17条の3の3「消防用設備等点検報告制度」
3)建築基準法第12条「定期報告制度」(12条点検)
です。
1)の「防火対象物点検」は、ビルの防火管理者や消防計画、避難訓練や消防用設備の設置状態といった、いわば「ソフト面」を点検するものです。
対する2)の「消防用設備点検」は、具体的な設備や機器の動作確認など、「ハード面」の点検という違いがあります。
3)の「定期報告」は、建築基準法にもとづいて建物の安全性を点検するもので、その中の1項目として「防火設備」が含まれています。
では、それぞれについて、どんな点検報告なのか、5W1H風に以下の項目について説明していきましょう。
◎Who:点検報告の義務を負い、実際に点検報告するのは誰か
◎What:点検報告が必要な対象は何か/点検項目は何か
◎When:点検周期はどれくらいか
◎Where:どこに報告するのか
◎How:どうやって報告するのか
これを見やすく表にしましたので、見てみてください。
3-1. 防火対象物定期点検報告制度
「防火対象物定期点検報告制度」(防火対象物点検)の概要は以下です。
点検・報告者 |
点検義務者:建物の管理権原者 |
---|---|
点検・報告対象 |
「防火対象物」に該当する建物や施設 |
点検項目 |
・防火管理者を選任しているか |
点検・報告周期 |
年1回 |
報告先 |
消防機関(消防長や消防署長) |
点検・報告方法 |
1)建物の所有者や管理者など管理権原者が、防火対象物点検資格者のいる設備会社などに点検を依頼する ※点検報告を怠ると、30万円以下の罰金または拘留が課せられるので要注意! |
3-2. 消防用設備等点検報告制度
「消防用設備等点検報告制度」(消防用設備点検)の概要は以下です。
点検・報告者 |
点検義務者:建物の関係者(所有者、管理者、占有者) |
---|---|
点検・報告対象 |
「防火対象物」に該当する建物や施設 |
点検項目 |
・消火設備:消化器、消火栓など |
点検・報告周期 |
<点検> 年2回 <報告> ・特定防火対象物:年1回(劇場、飲食店、百貨店、ホテル、病院、地下街など不特定多数の人が出入りする建物) |
報告先 |
消防機関(消防長や消防署長) |
点検・報告方法 |
1)建物の関係者(所有者か管理者、占有者)が、消防設備士か消防設備点検資格者のいる設備会社などに点検を依頼する ※点検報告を怠ると、30万円以下の罰金または拘留が課せられるので要注意! |
3-3. 定期報告制度(12条点検)
建築基準法にのっとった「定期報告制度」(12条点検)では、「防火設備」だけでなく建物のさまざまな安全点検を同時に行う必要があります。
点検するのは以下の4種です。
点検の対象 |
検査項目数 |
検査項目 |
---|---|---|
特定建築物 |
5項目 |
・敷地および地盤 |
建築設備 |
4項目 |
・給排水設備 |
防火設備 |
4項目 |
・防火扉 |
昇降機 |
4項目 |
・エレベーター |
これについては別記事「建物の安全を点検する「定期報告」制度:その点検内容と報告方法とは」にくわしくまとめてありますので、そちらを確認してください。
以上3つの点検報告を、ビルのオーナーや管理者は忘れず必ず行いましょう。
まとめ
いかがでしょうか?
防災設備とは何か、どんな種類があって何を設置する必要があるのか、よく理解してもらえたかと思います。
ではもう一度、記事の内容をまとめてみましょう。
◎「防災設備」は建物・人・財産を災害から守るための設備で、
- 消火設備
- 警報設備
- 避難設備
- 消火活動用設備など
- 防火設備
などが含まれる。
◎防災設備には、以下の3つの定期点検が必要
- 防火対象物定期点検報告制度
- 消防用設備等点検報告制度
- 定期報告制度(12条点検)
この記事が、あなたの防災設備に役立って、適切な災害対策ができることを願っています。
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