「うちのビルに防火設備が必要らしいけど、そもそも防火設備ってどんなもの?」
「職場で防火設備の定期点検をしなきゃいけないんだが、どんな点検を誰がすればいいのか?」
今この記事を開いたあなたは、建物の防火設備についてそんな疑問を抱いているのではないでしょうか?
結論から言えば、「防火設備」とは炎を遮る構造を持つもので、その性能が、
◯国が政令で定める技術的基準に適合しているもの
◯国土交通大臣が定めた構造方法を用いているか、国土交通大臣の認定を受けたもの
の両方の条件を満たしていなければならない、と法律で定められています。
これには防火扉、防火シャッターなどが含まれ、法令で決められた建物の決められた場所に設置しなければなりません。
また、定期的に点検して行政などに報告する義務もあります。
これらを守らなければ、火災が起きたときに火を食い止めることができず、大きな被害を出してしまうかもしれません。
そこでこの記事では、
◾️防火設備の種類とそれぞれに関する規定
◾️防火設備が必要な建物・場所
◾️防火設備の点検と定期報告
について、わかりやすく表にして説明していきます。
さらに、防火設備と防災設備の違いなど、知っておいた方がよい知識についても解説します。
この記事を最後まで読んで、あなたが適切に防火設備を設置し、正しく点検・報告できることを願っています。
目次
1. 防火設備とは?
「防火設備」という言葉は、一般的には「火災のときに火を防ぐ設備全般」という意味で使われがちですが、法律ではきちんとした定義がある用語です。
そこでこの章ではまず、「防火設備」という言葉の正確な定義、種類などをくわしく説明していきましょう。
1-1. 「防火設備」とは建築基準法が定める「炎を遮る設備」のこと
建築基準法には、「防火設備」についてこう記されています。
<建築基準法>
第二条 九の二より抜粋
「防火戸その他の政令で定める防火設備(その構造が遮炎性能(中略)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものに限る。)」
つまり、ここで言われる「防火設備」とは、炎を遮る構造を持つもので、その性能が、
◯国が政令で定める技術的基準に適合しているもの
◯国土交通大臣が定めた構造方法を用いているか、国土交通大臣の認定を受けたもの
の両方の条件を満たしている必要があるのです。
この規定については、「1-2 防火設備の種類と規定」でくわしく説明しますので、そちらを参照してください。
1-2. 防火設備の種類と規定
まず、防火設備には具体的にどんな設備があるのでしょうか?
また、建築基準法でいう「政令で定める技術的基準」や「国土交通大臣が定めた構造方法」とはどんなものでしょうか?
この章では、それら防火設備の種類と規定について見ていきましょう。
「防火設備」と「特定防火設備」
まず、防火設備はその耐火性能の程度によって、「防火設備」と「特定防火設備」に分けられています。
その具体的な規定と、設備の種類は以下の表の通りです。
分類 |
規定 |
主な設置場所 |
設備の例 |
---|---|---|---|
防火設備 |
20分耐火・遮炎 する性能 |
外壁の開口部や防火区画の一部 |
・網入りガラス ・そで壁 |
特定防火設備 |
1時間耐火・遮炎 する性能 |
防火区画や防火壁の開口部、外壁の開口部、避難階段の出入口部分など |
・防火戸(防火扉) ・防火シャッター |
※「防火区画」とは、建物の内部を防火扉などの防火設備で区切って、火災の延焼を防ぐための区画をいう
それぞれ適切な場所に設置することで炎を防ぎ、延焼を防いだり、建物内部から人が避難できるようにすることができます。
定期点検・報告が必要な防火設備4種
防火設備は4つの種類に分類され、それぞれ定期的に点検して結果を行政に報告するよう、建築基準法で義務づけられています。
この分類は、以下の4種です。
1)防火扉:
→廊下や階段などに設置して、火災の際には煙感知器などと連動、自動的に閉鎖して炎を防ぎます。
2)防火シャッター:
→広い通路などに設置して、火災の際には煙感知器などと連動、自動的に閉鎖して炎を防ぎます。
3)耐火クロススクリーン:
→エレベーターや広いスペースなどに設置する防火・防煙機能を持った布状のスクリーンで、火災の際には煙感知器などと連動、自動的に閉鎖して炎を防ぎます。
4)ドレンチャーその他の水幕を形成する防火設備:
→天井に設置した放水ヘッドから水幕を噴射して防火するドレンチャーなどです。
この定期点検・報告制度については、このあとの「3 防火設備の点検と定期報告」でくわしく説明しますので、そちらも読んでみてください。
防火設備に関する技術的基準と構造方法の規定
最後に、法令で認められる「防火設備」には、
1)国が政令で定める技術的基準に適合しているもの
2)国土交通大臣が定めた構造方法
の規定がありますので、それについて見ていきましょう。
まず、国が定める「防火設備の技術的基準」は以下の通りです。
【防火設備の技術的基準】
特定防火設備 |
防火設備 |
||
---|---|---|---|
要件 |
加熱面以外の面に火炎を出さないこと |
||
性能 |
遮炎性能 |
準遮炎性能 |
|
遮炎時間 |
1時間 |
20分 |
|
設置場所 |
防火区画 |
耐火建築物または準耐火建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分 |
防火地域または準防火地域内の建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分 |
火災の種類 |
建築物の屋内または周囲で発生する通常の火災 |
建築物の周囲で発生する 通常の火災 |
|
関係法令 |
建築基準法施行令第112条第1項 |
建築基準法第2条第九号二/口 建築基準法施行令第109条の2 |
建築基準法第64条 建築基準法施行令第136条の2の3 |
次に、国土交通大臣が定めた「防火設備の構造方法」は、以下です。
【防火設備の構造方法】
材料 |
特定防火設備 |
防火設備 |
---|---|---|
鉄製 |
・鉄板厚さ1.5mm以上のもの |
鉄板厚さ0.8mm以上1.5mm未満のもの |
鉄骨コンクリート製 |
厚さ3.5cm以上のもの |
厚さ3.5cm未満のもの |
土蔵造り |
厚さ15cm以上のもの |
厚さ15cm未満のもの |
鉄と網入りガラス製 |
── |
鉄および網入りガラスで造られたもの |
骨組みに防火塗料を塗布した木材製 |
── |
屋内面に厚さ1.2cm以上の木毛セメント板または厚さ0.9cm以上のせっこうボードを張り、屋外面に亜鉛鉄板を張ったもの |
防火塗料を塗布した木材および網入りガラスで造られたもの |
── |
開口面積が0.5㎡以内の開口部に設ける戸 |
防火設備として法的に認められるには、
◎上記の2つの基準を満たしているもの
◎技術的基準を満たし、構造については国土交通大臣の認定を受けたもの
でなければならないのです。
1-3. 「防火設備」と「防災設備」の違い
ところで、「防火設備」と似た言葉として「防災設備」が使われることがありますが、両者はどう違うのでしょうか?
まず、法的に定義や規定がある「防火設備」に対して、「防災設備」には厳密な定義はなく、「火災や地震などの災害から、建物や人命、財産などを守るための設備全般」といった意味で広く使われている言葉です。
その中には、もちろん「防火設備」も含まれます。
他に、
◾️消火設備
◾️警報設備
◾️避難設備
◾️消火活動用の設備
などが、防災設備だと言えるでしょう。
イメージとしては、以下の図のような関係性です。
2. 防火設備が必要な建物・場所
防火設備はどんな建物に必須で、建物のどこに設置すればいいのでしょうか?
これにも規定がありますので、以下に説明します。
2-1. 防火設備が必要な建物
防火設備が必要な建物・施設は、その地域と広さによって建築基準法で規定されています。
以下の表に該当する建物・施設は、耐火構造にしなければならず、よって防火設備も必要です。
ちなみに「防火地域」「準防火地域」とは、都市計画法第9条によって定められた地域です。
多くの場合、街の中心部や駅前の商業地域などが防火地域、その周囲が準防火地域とされます。
1)防火地域内の建築物
延べ面積 |
||||
50㎡以下の付属建築物 |
50㎡超100㎡以下 |
100㎡超 |
||
階数(地階を除く) |
3以上 |
耐火建築物 |
||
2 |
耐火建築物または準耐火建築物 |
耐火建築物 |
||
1 |
木造建築物(防火構造)も可 |
耐火建築物または準耐火建築物 |
耐火建築物 |
2)準防火地域内の建築物
延べ面積 |
||||
500㎡以下 |
500㎡超1500㎡以下 |
1500㎡超 |
||
階数(地階を除く) |
4以上 |
耐火建築物 |
||
3 |
※耐火建築物・準耐火建築物または技術基準適合建築物 |
耐火建築物または準耐火建築物 |
耐火建築物 |
|
2または1 |
木造建築物(防火構造)も可 |
耐火建築物または準耐火建築物 |
耐火建築物 |
※ 技術基準のうち、隣地境界線等から水平距離が1m以下の部分の開口部に設ける防火設備については、以下のいずれかの構造とする必要があります。
①常時閉鎖式であるもの
②随時閉鎖でき、かつ火災を感知して自動的に閉鎖するもの③はめ殺し戸である防火設備
ただし、換気孔または居室以外の室に設ける換気窓で、開口面積が各々0.2m2以内のものを除く。
2-2. 防火設備が必要な場所
また、防火設備が必要な建物に該当した場合、防火設備を設けなければならない場所は以下です。
1)防火設備の必要な外壁の開口部
対象建築物 |
対象部位 |
防火設備の種類 |
法令 |
---|---|---|---|
耐火建築物 |
外壁の開口部で延焼のおそれのある部分 |
遮炎性能を有する 防火設備 |
建築基準法第2条第9号の二/口 |
準耐火建築物 |
建築基準法第2条第9号の三 |
||
防火地域内または準防火地域内の建築物 |
準遮炎性能を有する 防火設備 |
建築基準法第64条 |
2)防火設備の必要な区画の開口部
対象建築物および区画等の種類 |
区画面積等 |
防火設備の種類 |
法令 |
|
---|---|---|---|---|
面 積 区 画 |
主要部が耐火構造 |
床面積 ≦1500㎡ |
特定防火設備(※1) |
建築基準法施行令第112条第1項 |
建築基準法第27条第2項、第62条第1項にもとづく準耐火建築物(不燃構造または1時間準耐火構造を除く) |
床面積 ≦500㎡ |
特定防火設備(※1) |
建築基準法施行令第112条第2項 |
|
・建築基準法第21条第1項ただし書、第27条第1項ただし書、第27条第2項、第62条第1項にもとづき主要構造部を耐火構造または1時間準耐火構造とした建築物 ・建築基準法第27条第2項、第62条第1項にもとづく準耐火建築物(不燃構造) |
床面積 ≦1000㎡ |
特定防火設備(※1) |
建築基準法施行令第112条第3項 |
|
高 層 区 画 |
11階以上の部分で内装仕上げが難燃材料 |
床面積 ≦100㎡ |
特定防火設備(※1) 防火設備(※1) |
建築基準法施行令第112条第5項 |
11階以上の部分で内装仕上・下地とも準不燃材料 |
床面積 ≦200㎡ |
特定防火設備 |
建築基準法施行令第112条第6項 |
|
11階以上の部分で内装仕上・下地とも不燃材料 |
床面積 ≦500㎡ |
特定防火設備 |
建築基準法施行令第112条第7項 |
|
竪 穴 区 画 |
主要構造部が耐火構造または準耐火構造で、地階または3階以上に居室のある建築物 |
メゾネット住戸・吹抜き・階段・エレベーター昇降路・ダクトスペースその他竪穴区画を形成する部分の周囲を区画 |
特定防火設備(※2) 防火設備(※2) |
建築基準法施行令第112条第9項 |
異 種 用 途 区 画 |
建築物の一部が建築基準法第24条に該当する建築物 |
当該用途部分相互間およびその他の部分との間を区画 |
特定防火設備(※2) 防火設備(※2) |
建築基準法施行令第112条第12項 |
建築物の一部が建築基準法第27条に該当する建築物 |
特定防火設備(※2) |
建築基準法施行令第112条第13項 |
※1 常時閉鎖または随時閉鎖方式とし、常時閉鎖以外の場合は、煙感知器または熱感知器連動とする。ただし階段室、エレベーターの昇降路の場合には、煙感知器連動かつ遮煙性能を有する構造とする。
※2 常時閉鎖または随時閉鎖方式とし、常時閉鎖以外の場合は、煙感知器連動かつ遮煙性能を有する構造とする。
3. 防火設備の点検と定期報告
防火設備は、法定通りに設置すればそれでよいというわけではありません。
建築基準法第12条では、定期的な点検と行政への報告を義務づけています。
最後にこの「定期報告制度」について解説しておきましょう。
3-1. 防火設備には点検と定期報告が必要
建築基準法は、「国民の生命や健康、財産を守り、公共の福祉に役立つこと」を目的とした法律です。
そのため、建物の安全性を確保するため建築基準を定めるなどしていて、その一環として、建物を定期的に点検し、その結果を行政に報告するよう、建物の所有者や管理者には義務が課せられています。
これを「定期報告制度」、通称「12条点検」と呼び、その中に「防火設備」の点検報告も含まれているのです。
建築基準法第12条の条文を要約すると、以下のような内容になります。
特定建築物の所有者は、建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者にその状況の調査をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
わかりやすく言いかえると、「特定建築物」の持ち主は、
- 建物の敷地、構造
- 建物の設備
について、国が定める検査項目を、一級建築士などの資格を持つ人に定期的に調査してもらって、「特定行政庁」に定期的に報告する義務がある、となります。
この「定期報告」のポイントは、
◎「特定建築物」についての点検・報告義務であること
◎国が定めた検査項目について点検・報告すること
◎定期的に点検・報告すること
◎持ち主自身が点検するのではなく、専門家に調査してもらうこと
◎報告先は「特定行政庁」であること
の5つです。
「特定建築物」「特定行政庁」など聞き慣れない言葉がありますが、それも含めてこの制度についてくわしく知りたい場合は、別記事「建物の安全を点検する『定期報告』制度:その点検内容と報告方法とは」にわかりやすく解説されていますので、そちらもぜひ参照してください。
3-2. 点検項目
「定期報告制度」は防火設備だけでなく、建物全体の安全性を点検する制度です。
国が定める検査対象は4つあり、それぞれの検査項目は以下の通りです。
点検の対象 |
検査項目数 |
検査項目 |
---|---|---|
特定建築物 |
5項目 |
・敷地および地盤 |
建築設備 |
4項目 |
・給排水設備 |
防火設備 |
4項目 |
・防火扉 |
昇降機 |
4項目 |
・エレベーター |
また、防火設備それぞれのくわしい点検内容は以下です。
検査項目 |
主な検査内容 |
---|---|
防火扉 |
◎防火扉周辺に障害となる物が放置されていないか |
防火シャッター |
◎シャッター周辺に障害となる物が放置されていないか |
耐火クロススクリーン |
◎設置場所の周囲に障害となる物が放置されていないか |
ドレンチャーその他の水幕を形成する防火設備 |
◎ドレンチャー付近に障害となる物が放置されていないか |
調査方法は、
◎目視
◎触診
◎設計図の確認
◎巻尺やストップウォッチによる測定
◎機器の動作確認
◎煙感知器や熱感知器などを使って設備の動作確認
などを適宜行います。
これについて、さらにくわしい検査内容を知りたい場合は、以下のリンクで確認してください。
国土交通省 告示「防火設備の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」
3-3. 点検周期
「定期報告制度」(12条点検)では、建物を定期的に点検・報告しなければなりません。
ではいつ、どのくらいの周期で行えばよいのでしょうか?
国の定めは以下の通りです。
点検の種別 |
報告時期 |
---|---|
建築物 |
おおむね6ヶ月〜3年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期 |
建築設備 昇降機など 防火設備 |
おおむね6ヶ月〜1年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期 |
この範囲内で、各特定行政庁が細かい報告時期を定めています。
例えば東京都の場合、以下の報告時期・報告周期が定められています。
点検の種別 |
報告時期 |
|
---|---|---|
建築物 |
劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場、ホテル、旅館、百貨店、マーケット、勝馬投票券発売所、場外車券売り場、物品販売業を営む店舗、地下街 |
毎年11月1日〜翌年1月31日 (1年ごと) |
それ以外の特定建築物 |
平成31年5月1日〜10月31日 (3年ごと) |
|
建築設備 |
毎年 (前年の報告日の翌日から1年以内) ※遊戯施設などは6ヶ月ごと |
|
防火設備 |
||
昇降機 |
これについても、別記事「建物の安全を点検する『定期報告』制度:その点検内容と報告方法とは」にさらにくわしく説明がありますので、確認してください。
まとめ
いかがでしょうか?
防火設備とは何か、何が必要でどんな点検をすればいいのか、よく理解できたかと思います。
では最後にもう一度、記事の要点をまとめてみましょう。
◎「防火設備」とは炎を遮る構造を持つもので、その性能が、
- 国が政令で定める技術的基準に適合しているもの
- 国土交通大臣が定めた構造方法を用いているか、国土交通大臣の認定を受けたもの
の両方の条件を満たしているもの
◎防火設備は耐火性能によって「防火設備」と「特定防火設備」の2種に分けられる
◎定期点検・報告が必要な防火設備は以下の4種
①防火扉
②防火シャッター
③耐火クロススクリーン
④ドレンチャーその他の水幕を形成する防火設備
これらを踏まえて、防火設備を正しく設置、点検・報告できることを願っています。
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