「ビルには『定期報告の義務がある』と言われたが、定期報告とは何だろう?」
「どこに何を報告すればいいのかわからない」
ビル管理に関して、そんな疑問や悩みを持っている人も多いことでしょう。
ズバリ答えを言えば、「定期報告」とは建築基準法第12条で定められた、ビルの安全点検・報告制度です。
ビルの所有者や管理者は、定期的にビルの安全点検をして、特定行政庁に結果を報告するよう義務づけられているのです。
この制度を「定期報告制度」(通称「12条点検」)と呼んでいます。
そこで、この記事ではまず、
◾️定期報告制度の概要・目的・成り立ち
◾️定期報告を怠るとどうなるのか
といった「定期報告制度」の基礎知識を解説していきます。
その上で、
◾️定期報告は、誰が・何を・どこに・いつ・なぜ・どうやって報告するのか
◾️定期報告の点検項目
など、実際に何をどうすればいいのかをくわしく説明します。
この記事を最後まで読めば、定期報告とはどんな制度か、誰が何をすべきなのかがよくわかるでしょう。
もしあなたの関わるビルに定期報告の義務があった場合は、この記事にしたがって正しく点検・報告できることを願っています。
1. 「定期報告」とは建築基準法第12条による建物の安全点検・報告制度
上記の見出しの通り、「定期報告」とは、建築基準法第12条に定められた建物についての安全点検・報告の制度で、「12条点検」とも呼ばれています。
大勢の人が出入りする建物や事業所については、所有者や管理者に対して、定期的に決められた点検を実施し、特定行政庁に報告する義務が課せられているのです。
ではなぜこのような制度ができたのか、どんな意義があるのかなど、まずは定期報告制度の位置づけから解説していきましょう。
1-1. 定期報告制度の概要
最初に、定期報告制度を定めた建築基準法第12条の内容を見てみましょう。
条文を要約すると、以下のような内容になります。
特定建築物の所有者は、建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者にその状況の調査をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
これによると、「特定建築物」の持ち主は、
- 建物の敷地、構造
- 建物の設備
について、国が定める検査項目を、一級建築士などの資格を持つ人に定期的に調査してもらって、「特定行政庁」に定期的に報告する義務がある、ということになります。
ポイントは以下の5つです。
◎「特定建築物」についての点検・報告義務であること
◎国が定めた検査項目について点検・報告すること
◎定期的に点検・報告すること
◎持ち主自身が点検するのではなく、専門家に調査してもらうこと
◎報告先は「特定行政庁」であること
ここでいう「特定建築物」とは、法律で定められた一定の基準に当てはまる建物を指します。
どんな建物が該当するのかは、この後の章の「2-2 何を:特定建築物」の項で詳しく説明しますので、そちらを参照してください。
また、「特定行政庁」とは、建物に関する建築確認や違反の是正命令などを行うことができる「建築主事」のいる行政機関のことです。
これについても、この後の「2-3 どこに:特定行政庁」に説明と特定行政庁一覧を掲載してありますので、確認してください。
そして、国が定める検査対象は、以下の4つです。
◎特定建築物
◎建築設備
◎防火設備
◎昇降機
これらをどんな風に検査するのかは、「3 定期報告の点検項目」で解説してありますので、知りたい方は3章を見てください。
ちなみに実際の12条の条文も、以下にあげておきます。
<建築基準法>
第十二条
第六条第一項第一号に掲げる建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物(以下この項及び第三項において「国等の建築物」という。)を除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築物(同号に掲げる建築物その他政令で定める建築物をいう。以下この条において同じ。)で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物を除く。)の所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、これらの建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者(次項及び次条第三項において「建築物調査員」という。)にその状況の調査(これらの建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み、これらの建築物の建築設備及び防火戸その他の政令で定める防火設備(以下「建築設備等」という。)についての第三項の検査を除く。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
長くてわかりづらいですよね。
これは読まずとも、最初に挙げた要約さえ頭に入れておけば、この後の説明は十分理解できますので安心してください。
1-2. 定期報告制度の目的
次に、定期報告は何のために必要なのでしょうか?
それは、建物を利用する人々の安全と健康を守るためです。
というのも、建築基準法の第1条が以下のような条文だからです。
<建築基準法>
第一条
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
つまり、建築基準法全体の目的が、「国民の生命や健康、財産を守り、公共の福祉に役立つこと」であり、その12条に定められた「定期点検制度」の目的もまた同様です。
言いかえれば、ビルのオーナーや管理者が、国が定めた基準に従って建物を安全に保ち、利用する人たちの命や健康を守るための制度と考えればよいでしょう。
1-3. 定期報告制度の成り立ち
では、なぜこのような制度ができたのでしょうか?
建築基準法自体が施行されたのは昭和25年(1950年)で、大正時代の「市街地建築物法」を全面改正して作られました。
第二次世界大戦を経て戦後の復興期に、安全な建物を建てるための基準を定めたものでしたが、その後の経済成長や社会情勢の変化などを受けて、たびたび改正を加えています。
定期報告制度は、建築基準法ができた当初にはまだ義務化されていませんでした。
「特定行政庁側から報告を求めることができる」という意味の条文があるだけでしたが、昭和45年(1970年)の法改正で、定期的な報告義務が定められたのです。
が、定期的な点検・報告を義務づけたあとにも、建物でさまざまな事故が起きたため、それを受けて定期報告制度にも大きな改正を二度ほど加えています。
◾️平成20年(2008年)の改正
平成18年の東京都内の公共賃貸住宅のエレベーターにおける死亡事故、平成19年の東京都内の複合ビル
のエレベーターにおける発煙事故と大阪府内の遊園地のコースターにおける死亡事故、東京都内の雑居ビルにおける広告板落下事故など、エレベーターや建物に関する事故が立て続けに起きたことを受け、
1)定期報告の調査・検査の項目、方法、判定基準を法令上で明確化する
2)報告内容を充実させる
ように改正されました。
◾️平成28年(2016年)の改正
平成24年の福山市のホテル火災、平成25年の長崎市のグループホーム火災と福岡市の診療所火災など、多数の死者が出る火災事故が続いたことを受け、
1)定期報告の対象となる建物として、「特定行政庁の指定するもの」に「政令で定めるもの」を追加する
2)検査対象として「防火設備」を追加する
3)調査・点検をする資格者制度を見直す
などの改正を行いました。
このような経緯をたどって、現行の定期報告制度が成り立っているというわけです。
1-4. 定期報告を怠るとどうなるのか
では、もし定期点検・報告を法定通りに行わなかった場合、どうなってしまうのでしょうか?
これには2種類のリスクがあります。
1)建物での事故や大規模火災の危険性
定期的に点検をせずに建物を使用していると、経年劣化や設備の故障などに気づけず放置してしまうことになり、事故や大きな火災につながる危険があります。
壁が崩落して人を傷つけたり、電気設備が故障して停電したり、火災のときに防災設備が作動せず大惨事つながってしまう──このような悲劇は、定期報告制度を正しく守っていれば防げる可能性が高いのです。
2)建築基準法第101条による罰則
定期報告を怠ったり、ウソの検査結果を報告したりすると、以下の法律により100万円以下の罰金が課せられる可能性があります。
<建築基準法>
第百一条
次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
(中略)
二 第十二条第一項若しくは第三項(これらの規定を第八十八条第一項又は第三項において準用する場合を含む。)又は第五項(第二号に係る部分に限り、第八十八条第一項から第三項までにおいて準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
これらのリスクを避けるためにも、定期報告はかならず行わなければならない義務なのです。
1-5. 定期報告制度は特定行政庁ごとに異なる
実は定期報告制度は、特定行政庁ごとに少しずつ異なっています。
違いがあるのは、以下の2点です。
◾️定期報告の対象となる「特定建築物」の範囲
「特定建築物」に該当する建物の範囲は、国で定めた定義がありますが、それに加えて特定行政庁ごとに定めた建物も定期報告の対象になります。
詳しくは「2-2 何を:特定建築物」の項を参照してください。
◾️定期報告の周期
定期報告をどれくらいの周期ごとに行えばいいのかについては、国ではなく特定行政庁ごとに決められています。
国の規定では、
- 建築物:おおむね6ヶ月〜3年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期
- 建築設備、昇降機、防火設備:おおむね6ヶ月〜1年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期
と大まかにしか定められていないので、検査するビルを管轄する特定行政庁の定めに従ってください。
これらを知るためにも、まず自分のビルがどの特定行政庁の管轄なのかを知る必要があります。
この後の「2-3 どこに:特定行政庁」の項から調べることができますので、確認してみてください。
2. 定期報告の5W1H:誰が・何を・どこに・いつ・なぜ・どうやって報告するのか
定期報告制度とはどんな制度かについて、5W1H風に整理すると、
◎誰が:特定建築物の所有者・管理者
◎何を:特定建築物
◎どこに:特定行政庁
◎いつ:1年ごと、3年ごとなど定期的に
◎どうやって:一級建築士などに検査を依頼し報告する
となります。
この章では、この5W1Hのそれぞれについてくわしく説明していきたいと思います。
ちなみに、この「どうやって=How」の中に「どんな点検をするのか」も含めることができますが、点検項目はとても細かく専門的なので、この章とは別に次の「3 定期報告の点検項目」でわかりやすく説明します。
2-1. 誰が:特定建築物の所有者・管理者
まず、「定期報告は誰が行う義務があるのか」ですが、これは「特定建築物の所有者または管理者」です。
建築基準法第12条には、
特定建築物(中略)の所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、(中略)特定行政庁に報告しなければならない。
所有者と管理者が同じ人の場合はその人が、異なる場合は管理者が報告義務を負うというわけです。と記されています。
2-2. 何を:特定建築物
定期報告制度が必要となる建物は、「特定建築物」です。
では、特定建築物とは何でしょうか?
それは2種類あります。
1)国が政令で指定する建築物
2)特定行政庁がそれぞれに指定する建築物
1)には含まれなくても、2)に含まれる場合は、報告義務が生じますので注意してください。
では、それぞれが定める具体的な特定建築物の範囲を見ていきましょう。
1)国が政令で指定する建築物
国が定める特定建築物は、
◎以下の表の用途に使われる建物で、
◎その用途に使う部分の床面積の合計が200㎡以上あるもの
と定められています。
用途 |
規模 |
|
---|---|---|
1 |
劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場など |
・3階以上の階にあるもの |
2 |
病院、有床診療所、ホテル、旅館、就寝用福祉施設(※別注参照) |
・3階以上の階にあるもの |
3 |
体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツ練習場(いずれも学校に附属するものを除く) |
・3階以上の階にあるもの |
4 |
百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店、飲食店公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物品販売業を営む店舗 |
・3階以上の階にあるもの |
※「就寝用福祉施設」とは、サービス付き高齢者向け住宅、認知症高齢者グループホーム、障害者グループホーム、助産施設、乳児院、障害児入所施設、助産所、盲導犬訓練施設、救護施設、更生施設、老人短期入所施設、小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護の事業所、老人デイサービスセンター、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、母子保護施設、障害者支援施設、福祉ホーム、障害福祉サービスの事業所を指します。
2)特定行政庁がそれぞれに指定する建築物
特定行政庁が指定する特定建築物は、それぞれに確認する必要があります。
多くの特定行政庁ではホームページなどでその対象の範囲を公開していますので、調べてみてください。
例えば東京都の場合は、以下のサイトで確認できます。
東京都都市整備局「定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」
これによると、国の規定に加えて、
◎学校、学校に付属する体育館で、床面積が2,000㎡以上のもの
◎5階建以上で延べ床面積が2,000㎡以上の事務所やそれに類するもので、3階以上の階にあって床面積が1,000㎡以上のもの
などが追加されています。
特定行政庁のリストとそれぞれの担当窓口・連絡先は、国土交通省の「特定行政庁の所在地・所管部(局)課・電話一覧」にまとめられていますので、以下のリンク先で確認してください。
国土交通省「特定行政庁の所在地・所管部(局)課・電話一覧」
2-3. どこに:特定行政庁
定期報告制度の報告先は、「特定行政庁」です。
ここで特定行政庁について、わかりやすく説明しましょう。
建築基準法では、特定行政庁について以下のように定義しています。
<建築基準法>
第二条 三十五 特定行政庁
建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい、その他の市町村の区域については都道府県知事をいう。ただし、第九十七条の二第一項又は第九十七条の三第一項の規定により建築主事を置く市町村の区域内の政令で定める建築物については、都道府県知事とする。
この条文ではわかりにくいですが、簡単に言えば、「建築主事が置かれている地方自治体とその長」のことです。
建築主事とは、建築基準法にもとづいて建築確認、検査、違法建築の是正命令などを行う行政機関とその職員です。
- すべての都道府県
- 政令で指定された人口25万人以上の市
には建築主事を置くことが法律で義務づけられているので、これらは特定行政庁であるということになります。
また、人口25万に満たない市区町村であっても、都道府県知事の同意のもとに建築主事を置くことができ、そうなると特定行政庁となります。
まとめると、特定行政庁は、
◎すべての都道府県
◎政令で指定された人口25万人以上の市
◎その他建築主事を置いている市区町村
なのです。
もし、自分のビルが建築主事のいる市区町村にある場合は、都道府県ではなく市区町村の方を特定行政庁として、定期報告をします。
特定行政庁の一覧は、全国建築審査会協議会の「特定行政庁一覧」でひと目で確認できます。
それぞれの連絡先などを知りたい場合は、国土交通省の「特定行政庁の所在地・所管部(局)課・電話一覧」を参照してください。
全国建築審査会協議会「特定行政庁一覧」
国土交通省「特定行政庁の所在地・所管部(局)課・電話一覧」
2-4. いつ:1年ごと、3年ごとなど定期的
定期報告はいつ、どの程度の周期で行えばいいのでしょうか?
それは「1-5 定期報告制度は特定行政庁ごとに異なる」で触れたように、国では大まかな基準しか定められておらず、特定行政庁ごとに委ねられているのです。
国の定めは以下の通りです。
点検の種別 |
報告時期 |
---|---|
建築物 |
おおむね6ヶ月〜3年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期 |
建築設備 昇降機など 防火設備 |
おおむね6ヶ月〜1年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期 |
この範囲内で、各特定行政庁が細かい報告時期を定めています。
例えば東京都の場合、以下の報告時期・報告周期が定められています。
点検の種別 |
報告時期 |
|
---|---|---|
建築物 |
劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場、ホテル、旅館、百貨店、マーケット、勝馬投票券発売所、場外車券売り場、物品販売業を営む店舗、地下街 |
毎年11月1日〜翌年1月31日 (1年ごと) |
それ以外の特定建築物 |
平成31年5月1日〜10月31日 (3年ごと) |
|
建築設備 |
毎年 (前年の報告日の翌日から1年以内) ※遊戯施設などは6ヶ月ごと |
|
防火設備 |
||
昇降機 |
特定建築物の範囲とあわせて、各特定行政庁に確認してください。
2-5. どうやって:一級建築士などに検査を依頼し報告する
定期報告は、建物の所有者や管理者に報告義務がありますが、報告するための建物の点検は、所有者や管理者自身が行う必要はありません。
建築物に関する知識が必要であるため、専門家に依頼して点検と報告書の作成をしてもらいます。
建築基準法第12条では、定期報告の点検は以下の3つの資格のいずれかを持った人だけが行うことができると定められています。
◎一級建築士
◎二級建築士
◎建築物調査員資格者証の交付を受けている者
昇降機の定期検査の場合は、昇降機等検査員資格者証の交付を受けている者
一般的には、定期報告を請け負ってくれる検査会社に依頼して、そこに所属している上記3資格のいずれかを持つ人に点検してもらう場合が多いようです。
では実際に、検査会社に依頼する場合はどうすればよいのでしょうか?
それは、以下のような7つのステップで行います。
基本的に建物の所有者・管理者がすることは、赤文字
- 検査会社を探す
- 検査に必要な書類を揃える
- 検査会社が作成した報告書を確認、押印して返送する
の3点のみです。
他は検査会社に任せることができますので、安心してください。
また、特定行政庁によっては、「特定建築物、建築設備、防火設備については、報告年が重なる場合は一緒に報告書を提出するように」と要請しているケースもあるので、確認の上で必要であれば同時に行いましょう。
<定期報告を検査会社に依頼する7ステップ>
1)検査通知書が届く 検査時期が来ると、該当する建築物を管轄する特定行政庁から、建物の所有者または管理者あてに検査を行うよう検査通知書が届きます。 昇降機については、報告書の提出先が特定行政庁ではなく委託された一般社団法人などである場合は、その法人から通知書が届きます。 |
▽
2)検査会社を探す 検査を依頼する検査会社を探します。 |
▽
3)検査に必要な書類を準備 検査会社に検査・報告書の作成をしてもらうために、建築物に関する資料が必要です。 だいたい検査日の1週間前までに、以下の資料を用意して検査会社に送るといいでしょう。 <初回の検査の場合> ①確認済証 <2回目以降の検査の場合> ①前回報告書 |
▽
4)検査 事前に依頼した検査日に、検査会社が建物を訪れて検査をします。 |
▽
5)検査会社が報告書を作成 検査日から1週間程度で検査会社が報告書を作成し、依頼者に郵送してきますので、内容を確認します。 |
▽
6)報告書に押印・返送 内容に問題がなければ、確認の押印をして検査会社に返送します。 |
▽
7)検査会社が報告書を特定行政庁に提出 押印済みの報告書が検査会社に届いたら、検査会社から特定行政庁に提出します。 提出は、検査日から1ヶ月以内に行う必要があります。 提出後はおよそ2ヶ月程度で、受付済みの報告書の副本が特定行政庁から検査会社に返送されます。 |
いい検査会社が見つかれば、次回からはそこに続けて依頼することで、2)の手間がなくなり、3)で揃える書類の種類も減ります。
信頼できて予算にも叶う検査会社をぜひ見つけてください。
3. 定期報告の点検項目
ここまで、定期報告についてさまざまな観点から解説してきました。
では最後に、「どんな検査をするのか」について、具体的に説明しておきましょう。
とはいえ、実際に点検するのは検査会社ですので、「別に知らなくても大丈夫」という方は、この章は読み飛ばして結構です。
まず、点検する対象と検査項目は以下の通りです。
点検の対象 |
検査項目数 |
検査項目 |
---|---|---|
特定建築物 |
5項目 |
・敷地および地盤 |
建築設備 |
4項目 |
・給排水設備 |
防火設備 |
4項目 |
・防火扉 |
昇降機 |
4項目 |
・エレベーター |
4種の点検は、
- 別々の検査会社に依頼する
- 特定建築物、建築設備、防火設備の3種すべてを請け負ってくれる検査会社があるので依頼する
のどちらでも結構です。
また「2-5 どうやって:一級建築士などに検査を依頼し報告する」で説明したように、特定行政庁が「報告年が重なるものは、一緒に報告書を提出するように」と要請している場合は、ひとつの検査会社にまとめて依頼する方がよいかもしれません。
ただ、昇降機に関しては、他の3種とは以下の点で異なります。
◾️定期報告とは別に、建築基準法第8条で使用頻度に応じた「保守点検」が義務づけられていて、定期報告よりもひんぱんに保守点検しなければならない
◾️検査をできる資格者が一級建築士、二級建築士、昇降機等検査員資格者と定められていて、建築物調査員資格者しかいない会社では調査ができない
◾️報告書の提出先が特定行政庁によって異なり、特定行政庁に提出する場合と、特定行政庁が委託した一般社団法人などに提出する場合がある
そのため、特定建築物、建築設備、防火設備の3種の点検とは別に、定期的に保守点検をしてくれる会社と契約し、定期報告もあわせてそこに依頼しているビルオーナーも多いようです。
3-1. 「建築物」の検査5項目
まず建築物そのものについての定期検査を、以下の表の5つの項目に分けて行います。
検査方法は、
◎目視
◎設計図の確認
◎巻尺による測定
◎テストハンマーによる打診
などです。
検査項目 |
主な検査内容 |
---|---|
敷地および地盤 |
◎建物周辺に陥没がないか、地盤沈下による傾斜などはないか |
建物外部 |
◎基礎部分に地盤沈下に伴うひび割れなどがないか |
屋上および屋根 |
◎屋上にひび割れや反りあがりがないか、歩行上の危険はないか、伸縮目地材が欠落して部分的に植物が繁茂していないか |
建物内部 |
◎内壁躯体に割れやズレ、著しい錆や腐食がないか |
避難施設・ 非常用侵入口など |
◎避難の支障となる物が放置されていないか、避難経路の幅員が確保されているか、扉の開閉に支障はないか |
さらに詳しい検査内容を知りたい場合は、以下のリンクで確認してください。
国土交通省 告示「建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法及び結果の判定基準並びに調査結果表を定める件」
3-2. 「建築設備」の検査4項目
次に、建物の設備について、以下の表の4つの項目について検査を行います。
検査方法は、
◎目視
◎触診
◎設計図の確認
◎巻尺による測定
◎機器の動作確認
◎温度計などによる測定
などです。
検査項目 |
主な検査内容 |
---|---|
給排水設備 |
<給水設備> <排水設備> |
換気設備 |
◎給排気口の設置位置や取り付け状況に問題はないか |
非常照明設備 |
◎非常用の照明器具は適切に取り付けられているか、正常に作動するか |
排煙設備 |
◎排煙機の作動に問題はないか |
さらに詳しい検査内容を知りたい場合は、以下のリンクで確認してください。
国土交通省 告示「建築設備(昇降機を除く。)の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」
3-3. 「防火設備」の検査4項目
また、防火設備については、以下の表の4つの項目について検査します。
検査方法は、
◎目視
◎触診
◎設計図の確認
◎巻尺やストップウォッチによる測定
◎機器の動作確認
◎煙感知器や熱感知器などを使って設備の動作確認
などです。
検査項目 |
主な検査内容 |
---|---|
防火扉 |
◎防火扉周辺に障害となる物が放置されていないか |
防火シャッター |
◎シャッター周辺に障害となる物が放置されていないか |
耐火クロススクリーン |
◎設置場所の周囲に障害となる物が放置されていないか |
ドレンチャーその他の水幕を形成する防火設備 |
◎ドレンチャー付近に障害となる物が放置されていないか |
さらに詳しい検査内容を知りたい場合は、以下のリンクで確認してください。
国土交通省 告示「防火設備の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」
3-4. 「昇降機」の検査
最後に昇降機についての定期検査は、以下の4つの項目です。
調査方法は、
◎目視
◎触診
◎聴診
◎測定
◎機器の動作確認
などです。
検査項目 |
主な検査内容 |
---|---|
エレベーター |
◎機関室の通路、階段、戸の施錠、室内などに問題がないか ◎制御器は正常に作動するか ◎階床選択機、巻上げ機、ブレーキなどは正常に作動するか ◎電動発電機に異常はないか ◎速度は適切か ◎降下防止装置の設置や作動に問題はないか ◎かごの設置、構造、ドア、操作盤、操縦機などに問題はないか |
エスカレーター |
|
小荷物専用昇降機 |
|
遊戯施設等 |
さらに詳しい検査内容を知りたい場合は、以下のリンクで確認してください。
国土交通省 告示「昇降機の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」
まとめ
いかがでしたか?
定期報告とは何か、どんなことをすればいいのかがよく理解してもらえたかと思います。
では最後にもう一度、記事の要点をまとめてみましょう。
◎「定期報告」とは建築基準法第12条による建物の安全点検・報告制度
◎「特定建築物」の持ち主は、
- 建物の敷地、構造
建物の設備
について、国が定める検査項目を調査、「特定行政庁」に定期的に報告する義務がある
◎国が定める検査対象は以下の4つ
- 特定建築物
- 建築設備
- 防火設備
- 昇降機
これにしたがって、あなたが正しく定期報告できることを願っています。
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