「水質検査をしなければいけないようなのだが、どうすればいいんだろう?」
「ビル管理をしていて、水質検査の内容や、何をすればいいのか知りたい」

この記事を開いた人は、そんな疑問を持っていることでしょう。

日本の水は非常に安全でおいしいものですが、それは「水道法」などの法律で水質検査が義務づけられているからです。
厚生労働省では、51項目の水質基準を設けており、水道業者はその基準をクリアした水を提供しなければなりません。

また、大勢の人が出入りするビルなどでは、ビル管理者が定期的に水質検査をして、保健所に報告する義務もあります。

そこでこの記事では、以下の項目についてわかりやすく説明します。

  • 水質検査の目的
  • 水質検査に関する法律
  • ビル管法における水質検査の項目
  • 検査業者に水質検査を依頼する場合の流れ

この記事を最後まで読めば、水質検査とはどんなものか、誰がどんな検査をいつすればいいのか、具体的に理解することができるはずです。

あなたが水質検査について知りたいことを知り、適切な対応をするために、この記事が役立てば幸いです。


1. 水質検査とは?

水は、人間が生きていくのに欠かせない大切なものです。
そのまま飲むのはもちろん、炊事洗濯、清掃、入浴やトイレなど、生活のあらゆる面で水を使っています。
また、農業、工業などの産業でも大量の水が必要です。

そんな大切な水ゆえに、その品質については法律で細かく安全基準が定められ、水質検査が義務づけられています。
この章では、その水質検査について、どんな基準があるのか、どんな検査が必要かなど、基本的な知識を身につけていきましょう。

1-1. 水質検査の目的

水質検査の目的は、人が使用する水を安全で清潔に保つことです。

もし水道水に病原菌などが混入していれば、それを飲んだり触れたりした人に健康被害が及ぶおそれがあります。
例えば近年でも、井戸水や湧き水などから下痢を引き起こす大腸菌、食中毒の原因となるカンピロバクター、ノロウイルスなどが検出された例があり、実際に発病した人が出ています。
※参考:厚生労働省「水質汚染事故等の発生状況」

そのような事故を未然に防ぐために、定期的に水質検査をして水質の管理をすることが必要なのです。

1-2. 水質検査に関する法律

日本では、水質を安全に保つため、さまざまな法律を定めて水質検査を義務づけています。

水の用途別に、適用される法律や基準は違っています。例えば、

飲料水に関する法律 水道法、食品衛生法、ビル管理法など
プール・公衆浴場 学校保健安全法、公衆浴場法など
地下水 環境基本法
河川、湖沼 環境基本法

などとなっています。

また、検査義務を負うのは誰なのかも、場合によって違ってきます。
例えば、水道水は水道局などの水道事業者が検査をしますし、公衆浴場や複合ビルなどでは施設や建物の管理者が検査義務を負い、専門の検査業者に依頼するなどの方法で行なっています。
中でも特に私たちと関わりが深いのは、飲料水などで日常的に利用している水道水に関する法律「水道法」です。

水質基準について定めた第4条と、検査義務について定めた第20条を見てみましょう。

<水道法>

第四条

水道により供給される水は、次の各号に掲げる要件を備えるものでなければならない。

一 病原生物に汚染され、又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものでないこと。
二 シアン、水銀その他の有毒物質を含まないこと。
三 銅、鉄、弗ふつ素、フェノールその他の物質をその許容量をこえて含まないこと。
四 異常な酸性又はアルカリ性を呈しないこと。
五 異常な臭味がないこと。ただし、消毒による臭味を除く。
六 外観は、ほとんど無色透明であること。

2 前項各号の基準に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。
第二十条

水道事業者は、厚生労働省令の定めるところにより、定期及び臨時の水質検査を行わなければならない。
2 水道事業者は、前項の規定による水質検査を行つたときは、これに関する記録を作成し、水質検査を行つた日から起算して五年間、これを保存しなければならない。

第4条では、水道水に含まれていてはいけない物質を挙げていますが、これについてはさらに詳しく厚生労働省が51項目の基準を定めていて、それにもとづいて、水道局などの水道事業者が水質検査を行わなければいけません。

厚生労働省が定める51項目の基準は、以下のホームページで確認できます
厚生労働省ホームページ「水質基準項目と基準値(51項目)」

大腸菌、塩素酸、鉄や銅などの金属類、ホルムアルデヒドなどの含有量から、pH値、味やにおいなどまで基準を設けています。
私たちが毎日水道をひねって利用している水は、51項目もの検査に合格した水だと知れば、より安心して飲むことができるのではないでしょうか。


2. ビル管法における水質検査の項目

私たちが水を使うのは、もちろん自宅がもっとも多いでしょうが、次に多いのは、勤務先や外出先などの建物の水道だと思います。

実は、不特定多数の人が出入りする建物には、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」、通称「ビル管法」で、建物の管理者に水質検査が義務づけられているのです。

この章では、そのビル管法の水質検査について、くわしく説明していきましょう。

また、ビル管法については別記事「ビル管法とは?対象となるビル、検査項目など基本知識を簡潔に解説」にくわしく説明がありますので、参考にしてみてください。

2-1. ビル管法で定められた水質検査16項目

ビル管法で基本的に定められた水質検査は、厚生労働省の基準項目51の中の16項目です。

6ヶ月以内ごとに1回の検査が義務づけられ、以下の基準に適合しているかを調べます。

検査項目

基準

回数

水質検査

一般細菌

100個/ml以下

6ヶ月以内ごとに1回

大腸菌

検出されないこと

鉛及びその化合物

0.01mg/L以下

亜硝酸態窒素

0.04mg/L以下

硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素

10mg/L以下

亜鉛及びその化合物

1.0mg/L以下

鉄及びその化合物

0.3mg/L以下

銅及びその化合物

1.0mg/L以下

塩化物イオン

200mg/L以下

蒸発残留物

500mg/L以下

有機物(全有機炭素(TOC)の量)

3mg/L以下

pH値

5.8以上8.6以下

異常でないこと

臭気

異常でないこと

色度

5度以下

濁度

2度以下

もしこの基準に適合していない項目があれば、ビルの管理者はただちに改善しなければなりません。

2-2. 前回検査が基準に適合していた場合の水質検査11項目

上記の16項目の水質検査のあと、6ヶ月以内にまた同じ検査をする必要があります。
しかし、もし16項目すべてが基準に適合していた場合は、次の検査に限って16項目のうち以下の5項目を省略することが認められています。

<省略可能な5項目>
1)鉛及びその化合物
2)亜鉛及びその化合物
3)鉄及びその化合物
4)銅及びその化合物
5)蒸発残留物

その場合は、以下の11項目の検査をしましょう。

項目

基準

回数

水質検査

一般細菌

100個/ml以下

6ヶ月以内ごとに1回

大腸菌

検出されないこと

亜硝酸態窒素

0.04mg/L以下

硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素

10mg/L以下

塩化物イオン

200mg/L以下

有機物(全有機炭素(TOC)の量)

3mg/L以下

pH値

5.8以上8.6以下

異常でないこと

臭気

異常でないこと

色度

5度以下

濁度

2度以下

ただしこの省略は次回のみに認められるものなので、その次にはまた16項目の検査が必要となります。

2-3. 定期検査が必要な消毒副生成物12項目

また、基本の16項目以外に、毎年定期的に検査を義務づけられている12項目があります
これは「消毒副生成物」と呼ばれるものの検査です。

水を消毒する際に、消毒剤である塩素を入れると、それが水に含まれている有機物などと反応して、有害な物質が生成されてしまう可能性があるため、それがないかを調べるわけです。
具体的には、以下の項目を毎年6月1日から9月30日までの間に検査することが定められています。

項目

基準

回数

水質検査

シアン化物イオン及び塩化シアン

0.01mg/L以下

1年以内ごとに1回

(6月1日~9月30日)

塩素酸

0.6mg/L以下

クロロ酢酸

0.02mg/L以下

クロロホルム

0.06mg/L以下

ジクロロ酢酸

0.03mg/L以下

ジブロモクロロメタン

0.1mg/L以下

臭素酸

0.01mg/L以下

総トリハロメタン

0.1mg/L以下

トリクロロ酢酸

0.03mg/L以下

ブロモジクロロメタン

0.03mg/L以下

ブロモホルム

0.09mg/L以下

ホルムアルデヒド

0.08mg/L以下

2-4. 水源に地下水を使用している場合の水質検査7項目

ビルの水源に、もし地下水(井戸水など)を使用している場合は、上記の検査にさらに7項目の検査を追加しなければなりません。

これは、水源すべてが地下水の場合だけでなく、一部に使用している場合でも必要な検査です。
ただし頻度は3年以内ごとに1回と、通常の検査よりも少なくて大丈夫です。

項目

基準

回数

水質検査

四塩化炭素

0.002mg/L以下

3年以内ごとに1回

シス-1,2-ジクロロエチレン及び

 トランス-1,2-ジクロロエチレン

0.04mg/L以下

ジクロロメタン

0.02mg/L以下

テトラクロロエチレン

0.01mg/L以下

トリクロロエチレン

0.01mg/L以下

ベンゼン

0.01mg/L以下

フェノール類

フェノールの量に換算して、0.005mg/L以下

また、初めて地下水を使い始める際には、給水開始前に、厚生労働省の水質基準51項目すべてを検査しなければならないとも定められています。
厚生労働省ホームページ「水質基準項目と基準値(51項目)」

2-5. 雑用水の水質検査

ここまでは、飲料水についての水質検査について説明してきましたが、飲料水以外に、「雑用水」も検査する必要があります

雑用水とは、「建築物内の発生した排水の再生水の他、雨水、下水処理水、工業用水等を、便所の洗浄水、水景用水、栽培用水、清掃用水等として用いる水」のことです。

この用途で、雨水や下水処理水などを使用する場合には、以下の基準で水質検査が必要です。
ただし、この用途でも水道水を利用する場合は、除外されます。

項目

基準

回数

雑用水の管理

散水、修景、清掃用水の水質検査

※し尿を含む水を原水として使用しないこと。

pH値

5.8以上8.6以下

7日以内ごとに1回

臭気

異常でないこと

外観

ほとんど無色透明であること

大腸菌

検出されないこと

2ヶ月以内ごとに1回

濁度

2度以下

水洗便所用水の水質検査

pH値

5.8以上8.6以下

7日以内ごとに1回

臭気

異常でないこと

外観

ほとんど無色透明であること

大腸菌

検出されないこと

2ヶ月以内ごとに1回

◎水洗便所用水への供給水が、手洗いやウォシュレット等に併用される場合は、飲料水としての適用を受けることとなります。

ビル管法が適用されるビルを管理する場合は、これらの水質検査を正しく行なって、安全で清潔な水質を保ってください。


3. ビル管理者が水質検査をするために知っておきたい4つのこと

ビル管理者が実際に水質検査をする前に、水質基準以外に知っておいた方がいいこともあります。
以下にそれを4つ挙げましたので、ぜひ覚えておいてください。

3-1. 水質検査ができるのはビル管理士と専門業者だけ

実際の水質を検査する作業は、誰にでもできるわけではありません。

ビルの場合は、ビル管理士の資格を持っている人だけができる業務です。

しかし、ビル管理士の資格を持ってビルの管理をしている「ビル管理者」は、どんな大きなビルであっても基本的にはひとりしかいません。ひとりで水質検査をするのは難しいでしょう。

現実的には、水質検査の専門業者に依頼している場合がほとんどです。

ビル管法では、ビルの管理に関わる業務を行う業者を、「建築物における衛生的環境の確保に関する事業」(建築物事業)として都道府県ごとに登録できるように定めています。

水質検査の業者も登録されていますので、依頼する場合は、これらの登録業者から選ぶとよいでしょう。
登録業者は、各都道府県のホームページなどで公開されています。
例えば東京都の場合、以下のページで業者一覧が見られますので、参考にしてみてください。

東京都健康安全研究センター 建築物事業登録営業所の一覧

さまざまな業者があり、「16項目検査」「51項目検査」などの検査プランを販売していますので、利用してください。

3-2. 検査は業者に水を送るだけでもできる

水質検査と聞くと、「業者がビルに来て、水を採取しながら1日かけて検査するのでは?」
というイメージを抱くかもしれませんが、そうではありません。

実際には、

◎業者がビルに来て水のサンプルを採取、後日結果を受け取る◎業者から水を採取する容器をもらい、ビル管理者が採取して業者に持ち込む
◎同じくビル管理者が採取して、業者に郵送する

といった方法で行います。

6ヶ月に1回は検査をしなければいけないので、郵送で受け付けてくれる業者を利用するのも手軽でよいでしょう。

3-3. 検査結果は5年間保管しなければならない

検査結果が出たら、各都道府県の保健所に報告書を提出する必要があります。
また、ビル管理者の方でも検査結果を5年間は保管しておくことが義務づけられています。

もしこの保管を怠ったり、必要なことを記載しない、虚偽の記載をするなどの違反があった場合は、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

3-4. 検査結果が不適合だった場合の罰則はない

検査結果の保管を怠ると罰則がありますが、検査結果が不適合だった場合の罰則は特にありませんが、場合によっては都道府県や保健所から改善命令が出されることもあります。

また、水質汚染によりビルの利用者に健康被害が出そうな場合など、緊急性を要すると判断されれば、ビル自体の使用を制限されてしまう可能性もあります。

たとえ罰則がなくても、かならず適切に管理しましょう。


4. 検査業者に水質検査を依頼する場合の7つのステップ

ステップ

それでは最後に、実際に水質検査専門の業者に依頼する場合の流れについて解説しましょう。
以下のような流れで行います。

1)業者を選ぶ
各都道府県のホームページなどで、「建築物における衛生的環境の確保に関する事業」(建築物事業)の登録業者の中から「水質検査」を業務として登録しているところを探しましょう。

 ▽

2)連絡・見積もり
選んだ業者に連絡をして、見積もりをとります。
16項目検査なのか、11項目なのか、51項目なのかなど、検査内容によって所要期間や金額などが変わって来ますので、くわしく確認しましょう。
複数の業者から相見積もりをとってもいいでしょう。

 ▽

3)依頼
検査内容、検査日などを確定し、正式に依頼します。

 ▽

4)水のサンプル採取
検査する水のサンプルを採取します。
採取方法は概ね以下の3パターンです。

①業者が来訪して採取
②ビル管理者が自分で採取して、業者に持ち込み
③ビル管理者が自分で採取して、業者に郵送

②③の場合は、採取容器や採取マニュアルを業者が送ってくれます。
もし時間がない場合は、手元にある容器でも、先方の指示通りに採取できれば受け取ってくれる業者もあります。

 ▽

5)検査
業者側で検査をします。

 ▽

6)調査結果受け取り
検査結果を受け取ります。
結果が出るまでの所要日数は、検査内容や業者によってまちまちですが、16項目・11項目の場合は、業者がサンプルを受け取ってから10営業日前後の場合が多いようです。
報告書は郵送で送られてきますが、急ぎの場合はFAXなどで送ってくれる業者もあります。

 ▽

7)保健所に報告
保健所に報告書を提出して完了です。
報告書はビル管理者の方でも5年間保存してください。


まとめ

いかがでしたか?
水質検査とはどんなものか、誰が何をすればいいのか、よく理解してもらえたのではないでしょうか。

では最後にもう一度、記事の内容を振り返ってみましょう。

水質検査の目的は、人が使用する水を安全で清潔に保つこと

水質検査に関する法律は、水の用途によって違っていて、

  • 飲料水に関する法律:水道法、食品衛生法、ビル管理法など
  • プール・公衆浴場:学校保健安全法、公衆浴場法など
  • 地下水:環境基本法
  • 河川、湖沼:環境基本法

ビル管法における水質検査の項目は、場合によって違い、

  • ビル管法で定められた水質検査16項目
  • 前回検査が基準に適合していた場合の水質検査11項目
  • 定期検査が必要な消毒副生成物12項目
  • 水源に地下水を使用している場合の水質検査7項目
  • 雑用水の水質検査

ビル管理者が水質検査をするために知っておきたいのは、

  • 水質検査ができるのはビル管理士と専門業者だけ
  • 検査は業者に水を送るだけでもできる
  • 検査結果は5年間保管しなければならない
  • 検査結果が不適合だった場合の罰則はない

検査業者に水質検査を依頼する場合の流れは、

1)業者を選ぶ
2)連絡・見積もり
3)依頼
4)水のサンプル採取
5)検査
6)調査結果受け取り
7)保健所に報告

以上の内容を踏まえて、あなたが適切な水質検査を行えることを願っています。

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