建築設備定期検査は建築基準法第12条で定められた法的検査であり建物の利用者が安心して過ごすためにも欠かせない大切な検査です。検査が初めての方には検査を必ず行う必要があるのか?罰則はあるのか?わからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は建築設備定期検査の罰則に焦点を合わせた内容でわかりやすく事例を説明していきます。是非この記事を参考にしていただきまして事故が起きない安全な建物を維持してください。
1.建築設備定期検査報告を行わない場合の罰則
建築設備定期検査の規定は建築基準法第12条に定められています。この検査報告を怠ることは法律違反となりますので決められた頻度で検査を実施して下さい。
初回は行政より検査通知書が送付されてきます。通知があっても定期報告をしない、又は虚偽の報告をした場合は、建築基準法の規定により「100万円以下の罰金」が科せられます。
定期報告を行わなかった場合は検査通知が行政より再度送付されます。この通知を無視し続けていると督促通知→電話連絡→立入検査と段階を踏んで指導が行われることとなります。現状これらの通知を無視し続けて罰金の処分まで行われたというケースは、今のところよほど悪質な場合に限られているようです。
しかし、定期報告を怠っていたことにより、万一、建物で火災などが起きて人が亡くなったり怪我をしてしまったら責任は、その建物の所有者や管理者に科せられます。
“「定期報告をしない・虚為報告」のよくある事例”
- 2章で紹介する「福山ホテル火災事故」は38年間定期報告を行わなかった結果、大参事につながりました。
- 検査を行ったが設備不良で改善事項があるにも関わらずその不良内容は定期報告を行わなかった。
- 所有者が定期報告をする前に報告書への捺印を忘れて規定の3ケ月を過ぎてしまった。そのため検査日をねつ造し、3ケ月以内に検査を行ったかのように見せた
※報告書は検査日より3ケ月以内の検査結果が有効です
過失により莫大の和解金を支払わざるを得なくなり、また裁判では、有罪判決ともなり社会的にも信用を失墜してしまいます。定期報告を行うことはご自身のリスク回避のためもありますが何よりも、建物を利用する人々の安全を守るためです。
安心して建物を利用できるように是非定期報告を実施していただきたいと思います。
※定期報告制度については「建物の安全を点検する「定期報告」制度:その点検内容と報告方法とは」で詳しく解説しているのでぜひご確認ください。
2.検査を行わずに設備に不備があった事故例
ここでは、検査報告を行わずに放置していた建物で実際に火災事故が起きた実例をわかりやすく説明しています。事故が起きたらどのようなリスクがあるのかを知ってほしいと思います。
2-1.福山ホテル火災事故
平成24年5月13日に広島県福山市のホテル「ホテルプリンス」で発生した火災事故です。
宿泊客7人が死亡し、従業員1人を含む4人が重傷を負うという火災事故でホテルの運営会社社長は業務上過失致死傷害罪に問われました。平成27年1月には広島地裁で禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決が言い渡されています。
この火災後の調査で、現行法で設置が義務付けられている排煙設備を設置していないために煙が室内に充満し視界が遮られたため従業員や宿泊客は逃げることができなかったことに加え、内装で使われていたベニヤ板が救助活動を妨げるという諸条件が死亡者を増やしてしまった要因となりました。
調査を行う内に防火設備が不充分なだけでなく管理もずさんであることがわかりました。防火対策として建築基準法で義務付けられていた定期報告が38年前から一度も行っていなかった。また元経営者である火元責任者が死亡したことも消防署に届け出ていませんでした。
定期報告の未実施、定期報告を行わないがため設備の不備や状況も把握せず放置していたため非常時には機能せず避難を妨げ、このような悲惨な事故につながってしまいました。
引用元:sankei news
2-2.歌舞伎町ビル火災事故
平成13年9月1日に東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビル「明星56ビル(みょうじょう56ビル)」で起きた火災事故です。この火災では3階にいた16名、4階にいた28名の計44名が死亡し、また3階から脱出した3名の負傷者もいました。
このビルでは火災事故後に東京消防庁から使用禁止命令が出されましたが平成18年年4月18日に遺族と和解が成立したため保全処分が解かれてその後解体されました。和解金は総額10億円以上となったと見込まれています。また平成20年年7月2日には、東京地方裁判所はビルオーナーら被告人5名を執行猶予付きの有罪判決を下しました。
このビルは自動火災報知設備は設置されていましたが、誤作動が多いために電源が切られていました。また、4階は天井を火災報知機ごと内装材で覆い隠してしまっていました。 また避難器具は、3階には設置せず、4階には設置されていたものの実質的に使用できない状態でした。
この事故では火災が発生した時に知らせてくれる火災報知設備が機能せず、また、避難経路も荷物等が障害となり逃げたくても逃げることができなかったためより悲惨な事故につながりました。
定期報告を実施しておけばこのような設備の不備である現状を把握し、改善もできていたはずです。定期報告を行わなかったことでビルの取り壊しや和解金の支払い・有罪判決を受けるなど結果的に取替しのつかないこととなってしまいました。
3.まとめ
建築設備定期検査は建築基準法により報告義務があり、報告を行わない場合は罰則規定があります。
定期報告を行わないからといって処分されたという実績はありません。しかしながら万一、火災などの事故が起きた場合は建物の所有者や管理者に刑事罰が科せられる場合があります。
検査を行う場合は費用がかかりますが一歩間違えば、人命を損なう悲惨な事故にもつながりますので建物を利用する人々の安全を守るためにも定期的に検査を行っていただきたいものです。
「建築設備定期検査」の内容についてもっと知りたい方は当ブログ「建築設備定期検査|設備異常から守るために知っておきたい内容と費用」を是非お読みください。
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