「ビルの管理をすることになったけれど、防火シャッターの点検もしなければならないの?」
「今度防火シャッターの点検が入るんだけれど、どんな点検をするんだろう?」
ビルのオーナーさんや管理担当者の方は、そんな疑問を持ったことがあるでしょう。
実は防火シャッターの点検は、以前は義務ではありませんでした。
2016年から義務付けられた、比較的新しい点検制度なのです。
その点検内容や方法も細かく規定されていて、一級建築士、二級建築士、防火設備検査員のいずれかに依頼して点検してもらいます。
点検自体は有資格の専門家が行いますが、オーナーさんや管理者の方も日頃から防火シャッターに留意して、故障や不具合をいち早く発見できるよう心がけなければ、いざ火災が起きた際に正しく作動しない恐れがあります。
そこでこの記事では、防火シャッターについて、何が点検されるのか、どんな不具合があるのかなどをオーナーさん向けにお伝えします。
◾️防火シャッターの点検義務について
◾️防火シャッターの重要性
についてまず知ってください。
その上で、
◾️防火シャッターの点検内容と点検方法<一覧表>
◾️防火シャッターのよくある不具合、故障の兆候
といった重要な情報もくわしく説明していきます。
この記事を最後まで読めば、ビルのオーナー、管理者として防火シャッターの点検に必要な知識がすべて得られるはずです。
目次
1. 防火シャッターには点検が必要!
ビルに設置された防火シャッターは、定期的に点検しなければなりません。
でもなぜ点検が必要なのでしょうか?
点検を怠るとどうなるのでしょうか?
まずはそれらの疑問に答えていきましょう。
1-1. 防火シャッターには定期検査報告が義務づけられている
防火シャッターには、法律によって定期的な点検と報告が義務付けられています。
が、実は以前は点検についての決まりはなく、以下の事柄だけが建築基準法で定められていました。
- 防火シャッターを含む防火設備の設置
- 防火シャッターなど防火設備が正常に作動するための維持管理
ところが2013年10月、福岡市のある診療所で火災が起きました。
その際、防火扉があったにもかかわらず作動せず、炎と煙が屋内に広がって多くの死傷者が出てしまったのです。
この大きな事故をきっかけに、2014年に建築基準法が改正され、2016年からは防火シャッターをはじめとする防火設備に定期的な検査報告をするよう義務付けられたわけです。
これを定めた法律は、建築基準法第12条第3項で、以下のような条文となっています。
【建築基準法】
第12条第3項
特定建築設備等(昇降機及び特定建築物の昇降機以外の建築設備等をいう。以下この項及び次項において同じ。)で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国等の建築物に設けるものを除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築設備等で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物に設けるものを除く。)の所有者は、これらの特定建築設備等について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築設備等検査員資格者証の交付を受けている者(次項及び第十二条の三第二項において「建築設備等検査員」という。)に検査(これらの特定建築設備等についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含む。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
1-2. 点検が義務づけられている防火シャッターとは
そもそも点検が必要な防火シャッターとはどんなものでしょうか?
防火シャッターはビルなどの建物に設置され、火災が起きた際にはこれを閉めることで炎や煙が屋内に広がるのを防ぐ役割があります。
自動式と手動式の2種類がありますが、比較的多く設置されているのは自動式です。
煙探知機がついていて、火災の際には煙を感知すると自動でシャッターが閉まる仕組みになっています。
が、すべての防火シャッターに点検の義務があるわけではありません。
建築基準法で検査報告が義務付けられているのは「特定建築物」の「防火設備」です。
「特定建築物」とは、多くの人が出入りするビルなどの建物をさしますが、そのくわしい定義は別記事「特定建築物とは?ビル管法や定期報告での定義と対象建築物一覧を解説」で確認してください。
1-3. なぜ防火シャッターが重要なのか
防火シャッターは、前述したように非常に重要な防火設備のひとつです。
火災が起きたときには、防火シャッターが閉まることで炎や煙を遮り、延焼を防ぎます。
また、屋内の人たちが避難するための時間的猶予を確保するという役割も持っています。
もし防火シャッターが正常に作動しなければ、「防火シャッターには定期検査報告が義務づけられている」でも触れた福岡市の診療所火災のような大事故につながりかねません。
そのため、特定建築物はもちろんそれ以外の建物であっても、つねに正しく作動するよう保守点検する必要があるのです。
1-4. 点検義務を怠った場合の罰則
防火シャッターなどの防火設備の点検が義務化されたことにより、点検を怠った場合の罰則も定められました。
その内容は以下です。
◾️定期検査報告を怠った場合:建物の所有者に100万円以下の罰金
◾️虚偽の報告をした場合:検査を行なった者に資格者証の返納命令
これについては別記事「防火設備定期検査|検査を怠ったり虚為報告を行った時の罰則はあるか」に解説されていますので、目を通してみてください。
2. 防火シャッターの点検内容と点検方法
ここまで防火シャッターの点検義務について説明してきました。
次はいよいよその点検の内容についてです。
以下にくわしく解説していきますので、これを参考に正しい点検を行なってください。
2-1. 点検内容と点検方法
防火シャッターを含めた防火設備の点検については、国土交通省 告示「防火設備の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」で点検内容が定められています。
- 何を点検するのか
- どんな方法で点検するのか
- 点検結果がどうなっていると問題なのか
が詳細に規定されていて、実際の点検はこれにしたがって行われます。
上記のリンク先は防火設備全体について記載されていて非常に膨大な内容なので、その中から防火シャッターに関する部分だけを、以下にまとめました。
どんな点検が行われるのか、確認してみましょう。
【防火シャッターの検査内容】
検査項目 |
検査事項 |
検査方法 |
判定基準 |
||
---|---|---|---|---|---|
1 |
防 火 シ ャ ッ タ ー |
設置場所の 周囲状況 |
閉鎖の障害となる物品の放置の状況 |
目視により確認 |
物品が放置されていることにより防火シャッターの閉鎖に支障があること |
2 |
駆動装置 |
軸受部のブラケット、巻き取りシャフトおよび開閉機の取り付けの状況 |
目視、聴診、または触診により確認 |
取り付けが堅固でないこと |
|
3 |
スプロケットの設置の状況 |
目視により確認 |
巻き取りシャフトと開閉機のスプロケットに心ずれがあること |
||
4 |
軸受部のブラケット、ベアリングおよびスプロケットまたはロープ車の劣化および損傷の状況 |
目視、聴診、または触診により確認 |
変形、損傷、著しい腐食、異常音または異常な振動があること |
||
5 |
ローラチェーンまたはワイヤロープの劣化および損傷の状況 |
目視、聴診、または触診により確認 |
腐食があること、異常音があること、もしくは歯飛びしていること、またはたるみもしくは固着があること |
||
6 |
カーテン部 |
スラットおよび座板の劣化などの状況 |
防火シャッターを閉鎖し、目視により確認 |
スラットもしくは座板に変形、損傷もしくは著しい腐食があること、またはスラットに片流れもしくは固着があること |
|
7 |
吊り元の劣化および損傷ならびに固定の状況 |
目視または触診により確認 |
変形、損傷もしくは著しい腐食があること、または固定ボルトの締め付けが堅固でないこと |
||
8 |
ケース |
劣化および損傷の状況 |
目視により確認 |
ケースに外れがあること |
|
9 |
まぐさおよびガイドレール |
劣化および損傷の状況 |
目視により確認 |
まぐさもしくはガイドレールの本体に変形、損傷もしくは著しい腐食があること、または遮煙材に著しい損傷もしくは脱落があること |
|
10 |
危険防止 装置 |
危険防止用連動中継機の配線の状況 |
目視により確認 |
劣化、損傷または脱落があること |
|
11 |
危険防止装置用予備電源の劣化および損傷の状況 |
目視により確認 |
変形、損傷または著しい腐食があること |
||
12 |
危険防止装置用予備電源の容量の状況 |
予備電源試験スイッチ等を操作し、目視により確認 |
容量が不足していること |
||
13 |
座板感知部の劣化および損傷ならびに作動の状況 |
目視により確認するとともに、座板感知部を作動させ、防火シャッターの降下が停止することを確認 |
変形、損傷もしくは著しい腐食があること、または防火シャッターの降下が停止しないこと |
||
14 |
作動の状況 |
防火シャッターの閉鎖時間をストップウォッチ等により測定し、シャッターカーテンの質量により運動エネルギーを確認するとともに、座板感知部の作動により防火シャッターの降下を停止させ、その停止距離を鋼製巻尺等により測定 また、その作動を解除し、防火シャッターが再降下することを確認 |
運動エネルギーが10ジュールを超えること、座板感知部が作動してからの停止距離が5cmを超えること、または防火シャッターが再降下しないこと |
||
15 |
連 動 機 構 |
煙感知器、熱煙複合式感知器および熱感知器 |
設置位置 |
目視により確認するとともに、必要に応じて鋼製巻尺等により測定 |
煙感知器または熱煙複合式感知器にあっては昭和48年建設省告示第2563号第1第2号ニ(2)に掲げる場所に設けていないこと 熱感知器にあっては昭和48年建設省告示第2563号第一第二号ニ(2)(i)及び(ii)に掲げる場所に設けていないこと |
16 |
感知の状況 |
26の項または27の項の点検が行われるもの以外のものを対象として、加煙試験器、加熱試験器等により感知の状況を確認 ただし、前回の検査以降に同等の方法で実施した検査の記録がある場合にあっては、当該記録により確認 |
適正な時間内に感知しないこと |
||
17 |
温度ヒューズ装置 |
設置の状況 |
目視により確認 |
温度ヒューズの代わりに 針金等で固定されていること、変形、損傷もしくは著しい腐食があることまたは油脂、埃、塗料などの付着があること |
|
18 |
連動制御器 |
スイッチ類および表示灯の状況 |
目視により確認 |
スイッチ類に破損があること、または表示灯が点灯しないこと |
|
19 |
結線接続の状況 |
目視または触診により確認 |
断線、端子の緩み、脱落または損傷等があること |
||
20 |
接地の状況 |
回路計、ドライバー等により確認 |
接地線が接地端子に緊結されていないこと |
||
21 |
予備電源への切り替えの状況 |
常用電源を遮断し、作動の状況を確認 |
自動的に予備電源に切り替わらないこと |
||
22 |
連動機構用予備電源 |
劣化および損傷の状況 |
目視により確認 |
変形、損傷または著しい腐食があること |
|
23 |
容量の状況 |
予備電源試験スイッチ等を操作し、目視により確認 |
容量が不足していること |
||
24 |
自動閉鎖 装置 |
設置の状況 |
目視または触診により確認 |
取り付けが堅固でないこと、または変形、損傷もしくは著しい腐食があること |
|
25 |
手動閉鎖 装置 |
設置の状況 |
目視により確認するとともに、必要に応じて鋼製巻尺等により測定 |
速やかに作動することができる位置に設置されていないこと、周囲に障害物があり操作ができないこと、変形、損傷もしくは著しい腐食があること、または打ち破り窓のプレートが脱落していること |
|
26 |
総合的な作動の状況 |
防火シャッターの閉鎖の状況 |
煙感知器、熱煙複合式感知器もしくは熱感知器を作動させ、または温度ヒューズを外し、すべての防火シャッターの作動の状況を確認 ただし、連動機構用予備電源ごとに、少なくとも一以上の防火シャッターについて、予備電源に切り替えた状態で作動の状況を確認 |
防火シャッターが正常に閉鎖しないこと、または連動制御器の表示灯が点灯しないこと、もしくは音響装置が鳴動しないこと |
|
27 |
防火区画の形成の状況 |
当該区画のうち一以上を対象として、煙感知器または熱煙複合式感知器を作動させ、複数の防火シャッターの作動の状況およびその作動による防火区画の形成の状況を確認 |
防火シャッターが正常に閉鎖しないこと、連動制御器の表示灯が点灯しないこと、もしくは音響装置が鳴動しないこと、または防火区画が適切に形成されないこと |
※国土交通省 告示「防火設備の定期検査報告における検査及び定期点検における点検の項目、事項、方法及び結果の判定基準並びに検査結果表を定める件」より抜粋
2-2. 点検周期
防火設備の点検は定期的に行うよう義務付けられていますが、その点検周期はどれくらいでしょうか?
国の定めは以下の通りです。
点検の種別 |
報告時期 |
---|---|
建築設備 昇降機など 防火設備 |
おおむね6ヶ月〜1年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期 |
この範囲内で、各特定行政庁が細かい報告時期を定めることになっています。
例えば東京都では、「毎年(前年の報告日の翌日から1年以内)」と定められていますので、各地域ごとに確認してください。
2-3. 点検を行える者
防火設備の点検は誰が行なってもいいわけではありません。
これについても建築基準法第12条で、以下の資格を持った者が実施するよう定められています。
◎一級建築士
◎二級建築士
◎防火設備検査員
といっても、実際にはビルのオーナーからこれらの人に直接頼むことは少なく、専門の検査会社に依頼すると、そこに所属する有資格者が点検をしてくれます。
これについては、別記事「防火設備定期検査|検査項目から検査時期まで5つのポイント解説」にくわしく解説されていますので、それを参照に依頼先を選ぶとよいでしょう。
3. 防火シャッターの不具合と安全に利用するための対処法
ここまで防火シャッターの点検についていろいろな角度から解説してきました。
が、そもそも防火シャッターが故障したり、うまく作動しなかったりするのはどんなケースでしょうか?
最後に、防火シャッターによく起きがちな不具合や故障について知っておきましょう。
3-1. 防火シャッターのよくある不具合、故障の兆候
防火シャッターがいつでも正常に作動するよう維持しておくためには、定期的な点検とともに、ちょっとした不具合の兆候を見逃さずにいち早く対処する必要もあります。
一般的によく起きる不具合、故障の兆候には以下のようなものがあります。
- シャッターカーテンが傾いている
- シャッターカーテンが歪んだり破損したりしている
- 開閉すると、異音が聞こえる
- 動かしたとき、正しい位置まで上がらない・下がらない
- 手動閉鎖装置の異常表示ランプが点滅または点灯している
以上のような兆候があると、いざ火災が起きたときシャッターが機能しない危険性があるのです。
これらの異常を見逃さないよう、担当者はこまめに防火シャッターをチェックしておく必要があるでしょう。
3-2. 不具合に気づいたらどうすればいいか
防火シャッターの異常を発見したら、すぐにメーカーや保守点検業者に連絡してください。
プロにも点検してもらい、その結果修理が必要となれば、なるべく早くに修理しましょう。
故障したままでは火災が起きたときに被害が拡大してしまいますので、絶対に放置しないでください。
3-3. 日頃から注意しておくべきこと
また、防火シャッターが故障したり、いざというとき作動しないなどのトラブルを未然に防ぐために、日頃から以下のことを心がけておきましょう。
- シャッターが下りる位置にものを置かない
- 押しボタン(手動閉鎖装置)の周辺にものを置かない
- シャッターを閉めた状態で、シャッターカーテンにはしごなどものを立てかけない
- スイッチなど電気系統の周辺に水をかけない
- 台風など強風が吹いているときにシャッターを開閉しない
これらを守って、防火シャッターがいつでも正常に作動するよう保ってください。
まとめ
いかがでしたか?
防火シャッターの点検について、必要なことがよく理解できたかと思います。
最後にこの記事の内容を振り返ってみましょう。
◾️防火シャッターの点検は、2016年から建築基準法で義務付けられている
◾️点検を行えるのは、
- 一級建築士
- 二級建築士
- 防火設備検査員
◾️防火シャッターについて日頃から心がけることは、
- シャッターが下りる位置にものを置かない
- 押しボタン(手動閉鎖装置)の周辺にものを置かない
- シャッターを閉めた状態で、シャッターカーテンにはしごなどものを立てかけない
- スイッチなど電気系統の周辺に水をかけない
- 台風など強風が吹いているときにシャッターを開閉しない
また、別記事「防火設備定期検査|検査項目から検査時期まで5つのポイント解説」には防火設備全体の点検についてくわしく書かれていますので、そちらもぜひ参照してください。
この2記事をもとに、法律を守って正しく防火シャッターの点検をしましょう!
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